HERE Partner Day Japan 2023 SUMMER
2023年8月31日、東京・大手町のLIFORK Otemachiにて「HERE Partner Day 2023 SUMMER」を開催しました。本イベントはHERE Japanとパートナーの皆様がお互いの近況や成功事例、最新の話題を情報交換し、ともに成長していくことを目的にカジュアルな交流の場として企画したイベントで、当日は約50名のパートナー企業の皆様にご参加いただきました。
■開会挨拶
HERE Japan 代表取締役社長 枝隆志
はじめにHERE Japanの代表取締役社長・枝隆志が開会の挨拶を行いました。これまでHERE Japanはお客様を招いての大規模イベントを行ってきましたが、パートナー様向けイベントを開催するのは今回が初となります。枝社長は「本イベントはオープンな交流会であり、弊社の製品やサービスを一番ご理解いただいているパートナー様同士で交流していただき、様々なご意見をいただきたいと思います」とイベントの趣旨を説明しました。
HEREは1985年にNavigation Technologiesとして創業し、上場を果たした2004年以降、欧米におけるカーナビ向けデジタル地図の市場において約85%のシェアを達成しました。HEREが成長できた理由は、特に初期は自動車メーカーに向けてセールスを行うのではなく、一次部品メーカー(Tier1)と強力なパートナーシップを結んだことが大きく、それは「ドライバーがいかに最短かつ安全に目的地にたどり着けるか」という自動車メーカーのニーズとenablerであるHEREとの間には距離があるため、ナビゲーションサービスの実現にはソリューションとして組み上げることができるTier1の皆様の協力が不可欠だったからです。
枝社長は本イベントの開催理由について、以下のように語りました。
「私が社長に就任し、今後の方針を考えた際に、オートモーティブ事業で成功したときの振り返りをしたところ、重要なのはやはりパートナーの皆様であると考えました。我々自身は様々な業種の知見やソリューションを持っているわけではなく、日々お客様のニーズを把握してカスタマイズし、ビジネスを行っているパートナー様を下支えすることこそが我々の使命であるので、パートナー様が仕事をしやすい環境を作るためのお手伝いをしたいと考えて今回この場を設けさせていただきました」
■ジオテクノロジーズ株式会社
常務執行役員CRO 鈴木圭介氏
続いて、HERE Japanとパートナーシップを結んでいるジオテクノロジーズ株式会社の常務執行役員CROを務める鈴木圭介氏が登壇しました。ジオテクノロジーズはHEREに日本のベースマップを提供しており、ジオテクノロジーズはHEREが開発したAPIやSDKを活用したサービスの提供、販売も行っています。鈴木氏はジオテクノロジーズの取り組みとHEREとの関わりについて語りました。
ジオテクノロジーズは1994年にパイオニア株式会社の子会社のインクリメントP株式会社として創業し、2021年に独立して2022年に現在の社名に変更しました。同社は創業以来、デジタル地図の整備に取り組んできましたが、2020年にコンシューマー向けのM2Eアプリ「トリマ」をリリースし、位置情報データを活用した新たなビジネスを開始しました。同社のミッションは「地球を喜びで満たそう」で、「予測可能な世界を創る」ことをビジョンとしており、地図データに位置情報データやリサーチデータなどを組み合わせて分析を行えるプラットフォーム「Geo-Prediction Platform(GPP)」を展開しています。
HEREとは2018年からパートナーシップを結び、日本地域の地図データをHEREへ提供するとともに、「HERE Marketplace」にジオテクノロジーズのデータセットも提供しています。さらに、同社はHEREのプラチナパートナーとして、HEREから海外地図データの提供を受けて、ESRI経由で株式会社MIXIが提供するゲーム「モンスターストライク」や、株式会社トリドールホールディングスが海外の市場把握のために使用する地図データなどにもサービスを提供しています。
また、HEREのSDKを使用して物流向けスマートフォンアプリ「スグロジ」も開発・提供しています。HERE SDKを採用した理由は、大型車規制データを考慮したルート検索機能を備えていることや、地図表現が見やすく3D地図表示も滑らかに動作すること、ルート検索に対するサーバーリクエストのレスポンスが早いことなどが挙げられます。また、開発サポートサイトのUIがわかりやすく、SDKの使い方に関する問い合わせへの回答も早いことや利用ガイドが充実していることも高く評価しています。
■HERE Japan
ディレクター プロダクトポートフォリオマネージメント 山下順司
次にHERE Japanの山下順司が登壇し、HEREの製品の最新トピックスとロードマップについて語りました。HEREの日本製品については、2020年に「HERE Workspace」および「Location Services」のサービスを提供開始し、2021年にはAPIサービス提供基盤を立ち上げ、これによりサーバーリクエストのレスポンスタイムが劇的に向上しました。
2022年には基幹プロダクトである「HERE SDK Navigate」を提供開始し、さらに今年の1月にはCESにおいて次世代のアーキテクチャー「Unimap」の提供開始を発表しました。
HEREの製品ポートフォリオは大きく分けて「コンテンツ」と「ソフトウェア」の2つがあります。コンテンツには、カーナビなどで使われる一般的な地図(SDマップ)や自動運転向けの高精度3次元地図(HDマップ)、ADAS(先進運転システム)向けの地図のほか、POI(地点情報)や住所データ、インドア(屋内)地図、EV充電施設、交通情報などの空間コンテンツやダイナミックコンテンツも含まれます。
一方、ソフトウェアでは地図表示やルーティングなどの機能を提供するロケーションサービスをオートモーティブやロジスティクス、コンシューマーなどに向けて提供しています。このほか基盤サービスとして、「Workspace」「HERE Map Making」「Storefront」なども提供しています。
ロケーションサービスの最新トピックスとしては、経路検索を実現する「Routing API」において、物流DXの推進に役立つ機能として大型貨物車の規制情報に対応した経路検索を実現する「トラックルーティング」、EV充電施設の位置や道路の勾配を考慮した経路検索により走行距離の不安を払拭する「EVルーティング」、ETA(到着予想時間)の精度向上、二輪車通行規制区間を考慮した経路検索が可能な「二輪車ルーティング」が実現したほか、ETCや深夜休日割引に対応した道路料金計算などの機能強化を行う予定です。
SDKについては、3Dランドマークやオフライン検索機能、ガイダンスのローカライゼーション、方面看板・レーン情報、イラストレーション、ゾーン30アラート、オービスデータ、ADASデータ実装、JARTIC交通規制情報などの機能を2024年にかけて順次提供開始する予定です。
HEREのロケーションサービスは、クラウドでの提供に加えてセルフホスト型での提供も行っており、お客様が希望する環境でホスティングを行うことが可能です。
日本の地図コンテンツについては、ジオテクノロジーズ製の地図データをベースに、HEREが整備する全国800万件のPOI情報を収録するとともに、全国の乗用車や商用車両から取得したプローブデータをもとに生成した高精度な交通情報を提供しています。これらの地図コンテンツをグローバルな標準フォーマットで提供できる点がHEREの特長です。
さらに、お客様が保有するロケーションデータをもとにカスタムマップを作成できる「HERE Map Making」を利用することで、お客様敷地内のルーティング案内や私道と公道を跨いだルーティング、自社専用のEV充電施設のPOI検索への統合、自社の運用ルールやデータを反映したトラックルーティングなど、様々なカスタマイズが可能となります。
HERE Map Makingでは、HEREが自らの地図を作るために活用している様々な技術やツールをお客様に使っていただくことにより、お客様自らの地図を作るのに役立てていただくことが可能で、今年中にベータ版をリリースする予定です。
■HERE Japan
シニアプロダクトポートフォリオマネージャー 森亮
続いて、シニアプロダクトポートフォリオマネージャーを務める森亮が登壇し、ジオロケーションサービスとHEREの地図サービスについて語りました。
森は、ジオロケーションサービスが必須となる分野はいつの時代でも「意思決定支援」と「移動支援」の2種類であり、このニーズは人類が存在する限りは無くならず、そのマーケットは一貫して伸び続けており、この分野でビジネスすることは正しく、ここに投資をし続けることは非常に大事であると語りました。
ジオロケーションサービスの業界の構成は、一番上にユーザーがいて、その下に、顧客の課題をIT技術で解決する「アプリケーションプロバイダー」、デジタルデータをITで使えるように変換する「サービスプラットフォフォーマー」、「リアルワールド」をデジタルに変換する「データプロバイダー」の3層構造があり、企業ごとにカバーする領域の割合は異なります。傾向としては、グローバル企業はプラットフォーム部分をカバーすることが多いのに対して、日本の企業はそれ以外の部分を担っている場合が多いです。
ジオロケーションサービスの特徴は、無数のテーマと課題があり解決策も多種多様なため、SaaS(Software as a Service)をマスマーケットで展開することは難しく、それぞれの課題に対するソリューションやサービスを提供するプレーヤーが各地域に存在していることが挙げられます。
また、ハードウェアデバイスとソフトウェアツールがグローバルで共通している一方で、データは地域ごとに異なり、ローカルデータに確実にフィットしたサービスを作らないと受け入れられず、とくに住所体系や交通システム、都市の集積度などにおいて世界の中でも独特な日本の場合、ローカルパートナーとの提携が不可避となります。
HEREはGAFAなどの大企業とは独立した中立的な存在であり、顧客が特定のプラットフォームに囲い込まれるリスクがなく、他社サービスと組み合わせる際の制限も限定的です。たとえばHEREのルート検索やジオコーディングのレイヤーは、他社の地図と重ねて表示したり、使用したりすることが可能です。
さらに、他社ではロケーションサービス自体が広告メディアとなっているケースや、特定のOSに依存しているケースなどがあるのに対して、HEREにとってB2Bはコアビジネス領域であるため、HEREは地図やルート検索、施設検索データなどB2Bのソリューションに最適なコンテンツや機能を開発・提供しています。
さらに、グローバル企業でありながらローカルマーケットにコミットしている点も特徴で、グローバルのプラットフォームのスケーラビリティおよび安定性を持ちながらローカルマーケットに対応したサービスを提供しています。HERE Japanでは日本のパートナー企業様と協業して進めていく体制を構築しており、本イベントもその一環と言えます。
日本エリアの地図については、日本におけるB2Bの「スタンダードマップ」として、多様な業務に利用可能な汎用性のある地図を目指しました。ズームレベルの変化に応じて地域の全体像から詳細街区までの情報を高い次元で整理するとともに、住所や施設名、ビル名、駅出入口名なども詳細に表示しています。また、他社の地図のように広告コンテンツが表示されることもなく、POIの表示/非表示などの表現をユーザー側でカスタマイズ可能です。色のトーンも背景地図としての用途を想定し、全体的に控えめに設定しています。
森は最後に、「HEREの地図は厳格に品質管理がなされ、様々な目的で安心して使っていただけます。他社製のマップからHEREのマップに切り替えましょう!」と呼びかけました。
■パネルディスカッション
続いてのセッションでは、パートナー各社様を交えてパネルディスカッションが行われました。モデレーターはHERE Japanのマルチインダストリー&パートナー部長を務める小松健司が務めて、パネリストは株式会社MIERUNEの大橋正治様、都築電気株式会社の老川俊輔様、エクシオグループ株式会社の田部井俊幸様、株式会社村田製作所の津守宏晃様の4名で、皆様による取り組みの紹介が行われました。
●株式会社 MIERUNE
執行役員CRO 大橋正治 様
MIERUNEはオープンソースコミュニティから生まれた北海道のベンチャー企業で、2016年に創業しました。位置情報に関する豊富な技術や実績を持つソリューションカンパニーであり、オープンソースソフトウェア「QGIS」やWebGIS、地図タイルサービス「MapTiler」などの事業を提供しています。HEREとの関わりについては、2022年にHEREのグローバルパートナーネットワークに参画し、HEREのRoute Matching APIをQGIS上で使えるプラグインを提供しています。同プラグインを使うことにより、地図上の道路の位置をもとにGPSで取得した軌跡データを補正することができます
●都築電気 株式会社
Retail&SCM室長 老川俊輔 様
都築電気は幅広い業種の業務課題に対してICT技術で最適なソリューションを提供しているSIerで、物流領域においては2022年にクラウド動態管理システム「TCLOUD FOR SCM」を提供開始しました。同システムはスマートフォンと温度センサーを使って配送業務に必要な作業や位置情報、温度などを管理・分析することが可能で、動態管理やナビゲーションのほか、配送予実管理やメッセージ送受信、データ分析など様々な機能を持っています。今後はジオテクノロジーの物流向けアプリ「スグロジ」と連携してトラック専用ナビゲーション機能を提供することを検討しています。
●エクシオグループ 株式会社
グローバルビジネス本部 担当部長 田部井俊幸 様
2022年に通信建設会社のエクシオグループ様のグループ会社となったAscent Solutiionsは、地図データを活用した車両管理やカメラ映像を利用したデジタルツイン倉庫、IoTデバイスによる高齢者追跡、エレベーター監視など様々な屋内外ソリューションを提供しており、独自のIoTプラットフォームにより顧客のニーズに対応した様々なビジネスを創造しています。同社が提供するFMS(Fleet Management System:車両管理システム)はリアルタイムの位置情報追跡やジオフェンシングへの出入りやスピード違反の通知、走行履歴や速度のレポート、運行したルートの追跡履歴などの機能を搭載しています。今後はHEREと連携しながら日本市場でもこのFMSを提供することを検討しています。
●株式会社 村田製作所
IoT事業推進部プロジェクトマネージャー 津守宏晃 様
電子部品の開発・製造を手がける村田製作所では、同社の製品を使って取得したデータの販売も行っており、2022年からはインドネシアのジャカルタにて、路側帯にIoTセンサーを設置して測定した交通量データの販売を開始しています。このデータは車格(小型車・中型車・大型車)および1分ごとの通過車両の台数、平均移動速度などを車線ごとに取得したもので、これらのデータについてダッシュボードの閲覧権およびAPIのデータダウンロード権をサブスクリプションで提供しています。現在は市内101カ所にセンサーが設置されており、来年からは設置箇所が180カ所に増える予定です。このデータを他のデータと組み合わせて解析できるようにするためにデータ統合を検討しており、そのためにHEREのプラットフォームや属性データを活用しています。
4社による事例紹介に加えて、小松部長からHEREが提供するロケーションデータやAPIの活用事例として、以下の2つを紹介しました。
●MD Communet(Mobility Data portal and Community Net for smart society)
交通環境情報ポータルサイト「MD Communet」の事例として、HEREが提供する車両プローブデータをもとに京都市内の渋滞の混雑状況を可視化するツールを作成し、渋滞の対策やライドシェアの効果測定などを行いました。また、秋田県において、道路パトロールカーのドライブレコーダーによる動画やデジタルタコグラフのデータ、気象データとHEREの車両プローブデータを組み合わせて、路面状況調査や道路除雪業務における出勤判断の代替可能性や精度向上の可能性を検証しました。
●メルセデス・ベンツ様 ディーラー検索
HERE Maps APIの活用事例として、メルセデス・ベンツ様のウェブサイトを紹介しました。同サイトにてディーラーを検索するとHEREのマップが表示されます。HEREの日本エリアの地図がどのようなデザインとなっているのかを見ることができます。
これらの事例紹介に対する感想について、パネリストの皆様からは「実際のHEREの活用事例を知ることができたのは収穫だった」「各社とも色々な新しいチャレンジをしており、刺激を受けた」「グローバルの活用事例を聞けたので参考になった」「地図はインフラとして大きな可能性があり、これを活用してどのように世の中を良くしていくかを考えるきっかけとなった」といった感想が寄せられました。
■閉会挨拶
最後に、枝社長が閉会の挨拶として、以下のように語りました。
「本日、パートナーの皆様から様々な事例をご紹介いただき、どのサービスも作り込みのレベルがすごいと思いました。日本の地図は世界の中でも特殊であり、我々はグローバルで培ったノウハウでAPIを作り、一所懸命に日本へ合わせようとしていますが、もし今後、皆様がHEREのサービスを使う中で使いづらさや品質に関する問題などが生じた場合は、しっかりと協議して解決していくのがパートナーシップだと思いますので、忌憚のないご意見やアドバイスをいただければ幸いです。とにかく皆様の声を聞いて、どのように改善すればいいのかを考えていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします」
HERE Japanは今後も同様のイベントを日本のパートナー企業様に向けて開催していく予定です。