2026ロードセーフティ最前線:ロケーション技術の最新トレンド
Ian Dickson — 05 February 2026
1 読書時間
20 November 2025

「先日、AIに“12月に家族で行ける、暖かくて安い旅行先はどこ?”と聞いてみたんです」と、HERE TechnologiesでAI担当シニアディレクター、Aleksandra Kovacevic氏は話します。
AIは、理想的なホテルや最適な場所、さらにはフライトまで、必要な情報をしっかり見つけてくれました。しかし、予約そのものはしてくれませんでした。
Kovacevic氏はこう続けます。
「全部まとめて手配までしてくれたら最高なのに、と思いました」。
この身近な例こそが、エージェンティックAIが目指す世界を端的に表しています。
情報を提示するだけのAIから、目標を理解し、現実世界の制約を考慮し、自ら行動して達成へと導くAIへ──。
それが、AIが次に進もうとしている進化のステージなのです。
自動車、交通、物流などの業界では、これは“ちょっと便利になる”程度の話ではありません。
ビジネスの進め方そのものを大きく変えてしまう、本質的な変化です。
今のところ、位置情報を使うタスクはまだ多くの手作業を必要とします。
例えば、「ルートの途中にあって、静かで、屋外席があり、EV充電器もあるカフェを探したい」とします。
現状では、自分でバラバラの作業を組み合わせる必要があります。
ルートの中間地点を調べるツール、カフェを検索するサービス、充電器があるか確認するサイト、そして最後に“静かかどうか”を口コミでチェックする、といった具合です。
特に“静かかどうか”の判断は、今のシステムでは苦手な部分です。
しかし、エージェンティックAIの世界では、必要なことを自然な言葉で伝えるだけで、面倒な作業はすべてAIが処理します。
Kovacevic氏は産業向けの例として、こんな依頼を挙げています:
「7.5トン以上のトラックを低い橋を避けて迂回させ、EV対応の休憩地点を優先し、ピーク時間帯に港周辺の渋滞を予測して対応ルートを組んで」
これは、ルール・優先順位・予測が盛り込まれた複雑な指示です。
今のシステムでこれを対応させるには、あらゆるケースに合わせた詳細な指示を作り込み、事前に設定しておく必要があります。
エージェンティックAIは、この仕組みを根本から変えます。
状況に応じてその場で計画を立て、必要に応じて修正し、“いま必要な最適なやり方”を自律的に組み立てることができるのです。
多くの企業がエージェンティックAIの活用に期待を寄せていますが、実際には“複雑さ”という大きな壁に直面しています。
現在のAIは、標準的なツールやAPIを通じて企業データに接続できるため、レポートを取得したり、定型的な質問に答えたりする程度であれば問題なくこなせます。
しかし、配送ルートの再構築やサプライチェーン管理など、業界特有の高度な課題になると話は別です。
問題は「データにアクセスできない」ことではなく、AIがそのデータを正しく理解するための文脈や理由づけの力を持っていないことにあります。文脈が欠けていると、AIは情報を誤解したり、もっともらしく聞こえるが実際には間違った判断──いわゆる“ハルシネーション”──を起こす可能性があります。
Kovacevic氏はこう語ります。
「大規模言語モデルは“言葉を扱う力”には非常に優れています。でも、それは“世界の仕組み”や“複雑なシステムがどう動くか”まで理解している、という意味ではありません」
つまり、AIは賢そうに聞こえる返答はできても、
車の高さ制限、法定の休憩ルール、港周辺の渋滞が配送時間に与える影響といった現場の制約やリアルな事情 を本当に理解しているわけではない、ということです。そのため、構造化されたシステムや業務ルールと深く連携しない限り、どれほど高性能なAIでも、“正しく助言する”段階から “正しく行動できる”段階へはまだ進めません。
そして物流のように誤りが許されない業界では、
「推測」や「それっぽい答え」では通用しません。
自動車業界や物流業界の企業は、これから訪れるエージェンティックAI時代に向けて準備を進める必要があります。
Kovacevic氏が提案するのは、信頼構築と人のスキル向上に重きを置いた、段階的で着実な変革です。
最初に必要なのは、すべてをいきなり自動化するのではなく、AIが人の判断を支えるアシスタントとして働く環境を整えることです。
例えば、配送トラックが渋滞に巻き込まれたとします。
AIはリアルタイムデータを分析して、最適な次の一手を提案できます。
Kovacevic氏はこう強調します:
「AIが行動を提案するべきです。でも、最終的に正しいかどうか確認するのは人間です。AIにはあなたと同じ判断力や経験がありません」
この“人が最終判断をする仕組み(human-in-the-loop)”こそが鍵です。
AIはデータ処理の重い部分を担当し、人は経験をもとに提案の妥当性を判断する。
このサイクルが、人とAIの信頼関係を少しずつ築いていくのです。
次のステップは、これまで人の頭の中にあった“暗黙知”をAIに伝えることです。人がAIの提案をチェックし、修正した内容は、AIを改善するための貴重なフィードバックになります。手動調整、フィードバックループ、再学習などを通じて、AIは専門家の知識を徐々に吸収し、より現実に即した判断ができるようになります。
Kovacevic氏は言います:
「人間がAIの誤りを指摘し、正しくラベル付けすることで、AIは学び続けることができます」。この“修正と学習のループ”が進むほど、人間の役割は、単純作業の実行から、AIを監督し、育てる役割へとシフトしていきます。
HEREは、この移行を支えるうえで他にない強みを持っています。
HERE AI Assistantをはじめとする高度な地図データとAIツールによって、企業はリアルタイムの位置情報インテリジェンスを日々の業務に組み込み、意思決定の精度向上、ルート最適化、業務のムダ削減を実現できます。
最終的に、この変革の中心にあるのは人のスキルを高めることです。
Kovacevic氏は「AIが仕事を奪う」という考え方を否定し、こう語ります。「AIがあなたの仕事を奪うわけではありません。でも、AIを使いこなせない人の仕事は、AIを使える誰かが担うようになるかもしれません」
物流のような複雑な業界では、完全な自動化はすぐには実現しません。
Kovacevic氏は言います。 「物流は非常に複雑なので、エージェントがすべてを完全に担うようになるには、まだ時間がかかります」。これから必要なのは、人間とAIエージェントが協力しながら、より強く、効率的な仕組みを少しずつつくっていく段階的な変革です。
これは、エージェンティックAIの世界を探る旅のほんの始まりにすぎません。
次回の投稿では、この新しいAI能力を支える位置情報技術、そしてHEREがその基盤づくりをどのように支えているのかを、さらに詳しく紹介していきます。

Louis Boroditsky
Managing Editor, HERE360
Share article